冬の気象に左右される植生
白山を歩いていて、「なぜハイマツ林はここにあり、なぜお花畑がここに発達し、なぜ見事なブナ林がここにあるのか」と考えたことはないだろうか。こうした植生の分布は偶然のものではなく、標高・地形に加えて、冬の季節風と積雪の影響を受け、ちゃんと理由があって発達したものなのだ。
白山の石川県側は日本海に面している。冬には北西の季節風が日本海を吹き渡り、対馬暖流から大量の水蒸気を供給され日本に上陸する。この北西風が石川県側の斜面に直接ぶつかるので、そこで厚い雲が発達して山頂から山麓までは豪雪地帯となっており、湿った重い雪が降る。
大まかな植生の分布は他の山と同じように標高に左右され、白山の場合は大体標高2,300m以上が高山帯、1,600~2,300mが亜高山帯、400~1,600mが山地帯と言われている。標高の高いところは一般に風が強く、地形によって風当たりの強いところと弱いところがある。強いところでは雪が吹き飛ばされるので積雪量は少なくなり、弱いところではその雪が吹き溜りになるので積雪量は多くなる。風の影響は高山帯で最も強く現れ、亜高山帯・山地帯と標高が下がるにつれて影響は弱くなる。
以上のポイントを押さえた上で、次に高山帯・亜高山帯・山地帯ごとに、地形・積雪・風と植生の関係を見てみよう。
○高山帯

尾根筋は風が極端に強いため、ガンコウラン・チングルマ・クロマメノキ等の高さ十数cmの樹木がマット状に群落を作る。西~北西向きの斜面は冬の季節風によって雪が吹き飛ばされる部分に当たり、雪解けが早いため、比較的雪の重み(積雪荷重)に弱いハイマツが群落を作る。東~南東向きの斜面は吹き飛ばされた雪が堆積し、雪解けが遅いため、積雪荷重に強いミヤマハンノキ低木林が発達する。谷筋など夏場遅くまで雪が残るところでは、樹林は発達せず、ハクサンコザクラ・ミヤマキンバイ・クロユリ等がお花畑を形成する(雪田群落)。急斜面の場合にも樹林は発達せず、砂礫地の中にイワツメクサ・コメススキ・オンタデ等がパッチ状に群落を作る。
○亜高山帯

西~北西向きの斜面や尾根筋など積雪の少ない所には、積雪荷重に弱いオオシラビソが群落を作る(亜高山帯では高山帯ほど風は強くなく、尾根筋にも森林が発達する)。それを囲うようにチシマザサの笹原が発達することが多い。東~南東向きの積雪の多い斜面は、(ウラジロ)ナナカマド等の落葉広葉樹林が発達する。多少標高が低い所では風の影響が小さくなるため、斜面の方角による積雪量の変化は少なくなる。このような、積雪傾斜地にはダケカンバ林が発達する。谷筋など夏場遅くまで雪が残るところでは、高山帯同様、雪田群落が発達する。急斜面の場合には、オタカラコウ・ゼンテイカ・ミヤマシシウド・ハクサントリカブトなどの高茎草原がお花畑を作る。
○山地帯

高山帯・亜高山帯と違って、風の影響はほとんどなくなり、地形条件がそのまま積雪量に反映する。尾根筋は積雪が少なく、積雪荷重に弱いクロベ・ヒメコマツ等の針葉樹が群落を作る。尾根筋よりも積雪の多い、大部分の斜面はブナ林となる。沢に近い所はサワグルミ・オニグルミ林が発達し、急斜面の場合には、ススキ・クロバナヒキオコシ・ヨツバヒヨドリなどの高茎草原が群落を作る(山地帯高茎草原)。